ENTRUST BARBER SHOP
店舗名
唯一無二のコンセプトで17年間愛され続けるENTRUST BARBER SHOP。オーナーの人柄と哲学が、多くの顧客とスタッフに影響を与えている。今回は、ENTRUST BARBER SHOPのオーナー、國本篤さんに、これまでの歩みや理容業界への深い想いを伺った。
現在、17年間店舗を経営する國本さんだが、最初からこの仕事を目指していたわけではなかった。
「正直この仕事をするつもりなくて。家が建築屋だったんで、大工になろうと思っていた。」と当時を振り返る。
祖父が一級建築士だった影響もあり、自然と建築業界に進むつもりだったが、様々なアルバイトを経験する中で、接客業を学ぶ重要性を感じ、バーバーショップでアルバイトを始めることに。
色々アルバイトで経験を積んでいたが、ある時、祖父から「大工になるな」と言われたことで、したいことが見つからなくなったそう。
「バイト先のバーバーのオーナーに話してたら、じゃあ一年間だけ理容学校行ってみたらと言われて、学校に行ったのがきっかけ。やりたいこと見つかるまでこの仕事してたらと言われて、まだ見つからないからやってるって感じです(笑)」
この軽やかな語り口の中に、人生の転機となった出会いと、現在に至るまでの真摯な取り組みが垣間見える。
独立のタイミングについても興味深いエピソードを語ってくれた。
師匠から免許皆伝だって言われるまでは弟子として仕事を続けなければいけない。それがいくつになろうとも、と思っていたそうだが、10年勤めた時点で師匠から独立の許可をもらったそう。
ただ、ちょうどその時期に師匠の奥さんが病気になってしまった。
「自分が辞めるタイミングと奥さんがいない時期が重なると、お店が回らないので、俺は世話になった店に恩をあだで返すのが嫌いなので、だから奥さんが全快するまで、復活するまで、置かせてくださいと頼みました。」
師匠は早く独立するよう勧めたが、3年間店に残り続け、奥さんの復帰を待って独立。その後も約1年間は元の店を使わせてもらいながら、自分の店を準備していったという。
この話からは、技術だけでなく、人としての義理を重んじる姿勢が伺える。
「ENTRUST HAIR」という正式名称には深い意味が込められている。
「髪っていうのはヘアー。エントラストヘアー、要は髪を託す、委ねるっていう意味ですね」
さらに興味深いのは、その言葉の構成だ。
エン=日本語のご縁
トラスト=英語で信用信頼
の文字が合わさり、託す、委ねるENTRUSTという単語になる。
覚えにくい名前をあえて選んだのも、他にない独自性を求めたからだという。
店内を見渡すと、アメリカの国旗と障子が共存している独特な空間が広がる。
「基本、アメリカンはもちろん好きだけど、日本も大好きだよね。だから、パッと後ろ見てもらったら分かるけど、障子がある。左手にはアメリカの国旗があって」
このコンセプトを「ワメリカン」と名付け、その理由を次のように説明する。
「日本人じゃないアメリカ人が作った映画のワンシーンの日本ってどう思う?何か違和感がある。だったら、最初から日本人がアメリカンスタイルを作ったって、アメリカ人から見たら違和感しかない。じゃあどうしようか。そうだ、ミックスしちゃえばいいんだ」と國本さん。
日本の障子や鶴亀などの縁起の良い文化と、アメリカンテイストを融合させた独自の世界観を創り上げた。
気楽に来れて、あんまり気張らなくていいし、あとなんか楽しそうだなみたいな。ぐらいな店舗にしていきたいと語ってくれた。
接客について尋ねると、國本さんの職人としての信念が明確に表れた。
「もちろんベースの髪型とかは聞きますけど、基本言うこと聞かない。僕は。」
この一見矛盾する発言の真意は、店のコンセプト「カスタムメイドバーバー」にある。
「その人に合ったものを提供するっていうのをコンセプトにやってるんで、基本本人がやりたいって言ってた髪型でも、似合わなかったらオススメしないし、何なら、来たときに言ってた髪型と全然違う髪型に変えるときもある」
技術者としての見極める能力に絶対的な自信を持ち、お客様に最適なスタイルを提案することを最優先にしている。
現在、本店にアシスタント2名とネイリストの奥さん、金沢店「キャンディークロスオーバー」にオールマイティのスタッフ1名を抱えるが、その育成方針は一般的なものとは大きく異なる。
「俺は基本、あまり押し付けない。やらせない」
その理由を次のように説明する。
「あれ練習、これ練習ってお題を出して、宿題を解いていくような育て方しても、俺の見た限りの人で、そこから抜きん出た人は、あまり見たことなかったんで」
代わりに重視するのは、スタッフの自主性と多様な選択肢の提供だ。
全国に培った人脈を活かし、スタッフが様々な技術や考え方を学べる環境を提供しているそうだ。

クラシックからスタートした日本のフェード文化から、ポンパドールやサイドパートのようなベーシックのスタイルが主流になってきており、そこから派生させたヘアスタイルがどんどん出てきてると國本さん。
特に注目しているのは、日本独自のパーマ技術の発展だという。
「日本のパーマ文化を輸出していこうみたいな感じで、ウェーブスタイルを日本人が当たり前に楽しめるような、いかにもパーマじゃなく、自然なウェーブに見えるようなテイストを取り入れてきてる」
ウェーブパーマとフェードスタイルを上手く組み合わせたようなスタイルを形作っていきたいと熱く語ってくれた。
カット料金加えてカラー、パーマなどのカテゴリーの中に、フェードもスキンフェードのように細かくカテゴリー分けをすることができれば単価のアップにもつながる。
この料金体系の確立により、技術に見合った対価を得られるようになり、業界全体の底上げに繋がると國本さんは考えている。
「少しでもこの業界で利益を上げられるようになれば、若い子たちも普通に働いてた方が稼げたのに、この仕事やったから稼げなかったって言われないようにするために、世の中全体がそうなっていけば一番いい」と業界全体の課題についても訴えかけてくれた。
最後に今後チャレンジしてみたいことや次世代へのメッセージを伺った。

A.うちの若い子達がやってみたいってことをやってあげたい。言わない子が多いから、今静かだから、自分の壁をよじのぼって、これやってみたいっすとか、あれやってみたいですっていう言葉が出るようなときに、それをやってあげたいかなって思う。
自分のためにやれない人って、人のためにできないと思うんだよね。自分のためにやれてる人が人のためにできるなと思ってるから、基本、自分のためにまずやるようにしないといけないなっていうのはちょっと思うね。
A.最初に言った気持ち、思いを口に一回出したんだったら、軸になる部分だけは変えちゃダメだよ。
そこが曲がっちゃうと、もう違うところで軸作ろうと思っても、一回逃げた人間は二度三度、結果気づいたら定着してないってことが多いから。
その軸は変えずに、アップデートしていくのが大事。常に付け加え付け加えで、軸は変えずに付け加えで変化できるような生き方をしていけばいいんじゃないかなって思う。
あと選択肢はいっぱいあるんだよっていうのも知っておいた方がいい。どのお店に行っても自分のやりたいことができると思っている子が多い。
ここはパーマに特化してるよ、ここはカラーに特化してるよ、ここはショートに特化してるよ、こっちはロングに特化してるよ、とかっていうのを知らないまま入っちゃうからミスマッチが起きてしまう。
学生時代にしっかりとリサーチし、自分のやりたいことと店舗の方向性を照らし合わせて欲しい。
和と洋を融合させた独自の世界観、スタッフの自主性を重んじる育成方針、そして業界全体への深い愛情。ENTRUST BARBER SHOPが17年間愛され続ける理由は、オーナーの"自分らしく"を貫く姿勢の中にあるのかもしれない。
技術への探求心と人への温かさ。その両方を兼ね備えた店主が、今日もハサミを握り続けている。