CANDY BARBERSHOP
店舗名
大阪・岸和田。泉州地域独特の人情と熱量が溢れるこの街に、女性バーバーとして日々ハサミを握る新口春希さんがいる。専門学校時代に周囲の否定的な声を跳ね除け、信念を曲げずに歩んできた6年間。CANDY BARBERSHOPでの日々が、仕事の楽しさというものを根本から塗り替えた。バーバー業界における女性の存在意義と、彼女が描く未来について語ってもらった。
もともと美容師を目指していた新口さんが理容師の道に進んだのは、専門学校で出会った一人の女性のひと言がきっかけだった。
「専門学校のすごい綺麗な女性の方がいて、その方に『女性の理容師がこれからブームになる』って言われたんですよ」
正直、最初は半信半疑だったという。バーバーカルチャー自体、当時の新口さんにとってはほぼ未知の世界だった。「全く知らなくて、興味も全くなかったくらいなんで」と当時を振り返る。それでも先輩の言葉を信じて進んだ道が、今ここに繋がっている。「今ちょっとずつ女性のバーバーブームが来ているので、言っていたことが本当だったなって感じで。今では感謝でしかないですね」と新口さんは笑顔で語る。あの時の出会いがなければ、今の自分はなかったと。
しかし道のりは平坦ではなかった。専門学校に入学した当初、周囲の目は厳しかった。女性が理容師を目指すことを否定的に見る空気が、確かに存在していたという。バーバーといえば男の世界。そんな固定観念が、まだ色濃く残っていた時代だった。
「今では『女の散髪屋さんかっこいい』みたいになっているんですけど、その頃はそういう雰囲気じゃなかったですね」と新口さんは静かに振り返る。
それがここ2〜3年で大きく変わった。バーバーバトルのイベントに行けば女性の姿が増え、「なりたい」と口にする若い世代も確実に増えてきたと新口さんは感じている。「すごい増えてきました。だいぶなりたいという子も増えてきたので」と目を細める。
時代の変化が、彼女の選択を正解に変えていった。ただその変化は、偶然起きたものではない。新口さんのように否定的な空気の中でも信念を曲げずに歩み続けた先人たちが、一つひとつ積み上げてきた結果でもある。女性バーバーという選択肢が当たり前になる日を、誰より早く信じて動いてきた一人が、この新口春希さんなのだ。
卒業後に選んだのは、大阪市内の理容室。女性理容師を積極的に採用するその職場で3年間、技術を磨き続けた。ただ、メインはビジネスマン向けのヘッドスパ。フェードスタイルとも、バーバーカルチャーとも、少し距離のある環境だった。
仕事は楽しかった。でも、どこかで「もっとやりたいことがある」という気持ちが燻り続けていた。バーバーバトルの存在も知っていた。フェードスタイルも自分でやってみたかった。そのうちそのうち、と思いながら3年が経っていた。
転機となったのは、CANDY BARBERSHOPのオーナーが開いたセミナーへの参加だった。「岸和田にすごい人がいるというのは知っていたんですけど、その方がたまたまセミナーをするとなって行ったんですよ」と新口さんは当時を振り返る。初めて声をかけると、「来てよ」のひと言が返ってきた。それだけで十分だった。タイミングと縁が重なった瞬間だった。
CANDY BARBERSHOPのオーナーについて聞くと、新口さんの言葉に力が入った。
「出会ったことのないくらいパワフルな方で、みんなから愛される、悪い風に言う人は絶対いないし、いつも周りに人が集まってくる。私もそんな風になりたいと思っています」
これまで一人でお店を切り盛りしてきたオーナーのもとに新口さんが加わり、現在は2名体制で営業している。その背中を間近で見ながら学べる環境が、新口さんをさらに前へ進ませている。
女性がバーバー業界に入ることへの不安はなかったかと問うと、むしろ強みの話が返ってきた。
「顔剃りができるっていうのがすごい強みなのかなと思って。美容師さんは刃物を扱えないので、男性のお客様に顔剃りが欲しいという方が多い中で、理容師の魅力というのはだいぶ強みになるのかなと思います」
技術面でも、女性ならではのきめ細かさが活きる場面は多い。下積み時代の苦労を乗り越え、スタイリストとして立った今、偏見を跳ね返すのは言葉ではなく技術と結果だと、新口さんは経験を通して実感している。
CANDY BARBERSHOPで働き始めて、仕事の楽しさがさらに増したと新口さんは言う。
「もともとこの仕事は大好きだったんですけど、岸和田・貝塚という地域柄で、お客さんとの距離が友達みたいな感じで。カットに来る前から話のネタをいっぱい用意してきてくれて、笑いが絶えない毎日ですね」
泉州エリアは、言葉は荒くても人情が厚い。ヤンキーのイメージを持たれがちな地域性も、実際に暮らして働いてみれば「印象深い方がすごい多い」と新口さんは笑う。その温かさが、毎日の仕事をより豊かにしている。
最後に今後チャレンジしてみたいことや次世代へのメッセージを伺った。

A.ゆくゆくは自分のお店を持ちたいというのはありますし、ここで学んだ仕事の楽しさ、お客さんをかっこよくする喜び、家に遊びに来るみたいな空気感のお店。そういうのを自分でも作れたらいいなと思っています。
A.「女やから」とか関係なく、男性に負けない根性というのはすごい大事だと思います。
できないでしょって言われる場面もあるからこそ、そこで踏ん張れるかどうかかなと。
A.向き不向きはあると思うんですけど、自分に合った仕事だったらこんなに楽しい仕事はないと思っています。
下積みは大変だけど、自分のものにしてしまえば毎日楽しい。
今AIにいろんな仕事が取られるって言われている中で、この仕事はまだ人間にしかできないと思うので、その点でも誇れる仕事だなと最近すごい思いますね。
理容師は凄く良いお仕事でみんなをかっこよく笑顔にできる仕事です。
大変な事もあると思うけど、毎日が刺激的で正解がなく、おもしろい仕事です。これこらも理容師が増えたらいいなと思ってます。
否定的な声を跳ね除け、泉州の人情に育まれながら、今日もハサミを握る。女性バーバーとしての歩みは、まだ始まったばかりだ。技術で笑顔をつくり、技術で人生を拓く。それが新口さんの、そしてCANDY BARBERSHOPの揺るぎない信念である。